2023年– date –
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遠い昔の事
遠い昔の事 その15
後ろ見ておかなくてもいいの? “ケンチャナヨ” その言葉は聞こえないふりをして、 ふたたび“後ろ見なくても大丈夫?” ぶつけないでよと言う。 “ケンチャナヨ” “ケンチャナヨ” やっぱり見ておくよ。 “大丈夫や”と少し怒り気味に父が言った。 そのすぐ後にゴ... -
遠い昔の事
遠い昔の事 その14
病室に入った私は直ぐに父のそばに立ち 上から顔を覗き込んだ。 頭には何重にも巻かれた真っ白な包帯、 顔も腫れあがり、いたるところから管が出ている。 わたしは父の手をとり少し強く握った。 温かかった。 病室から出た私にイさんがそっとハンカチを差... -
遠い昔の事
遠い昔の事 その13
イさんはとても気遣いのできる人だ 会議室を出ると “コーヒーでも飲んで一息つきますか?” と声をかけてくれた。 --------------------------------------------- “コピチュセヨ” わたしが朝ごはんを食卓で食べていると父が来て母に向かってこう言う。 わ... -
遠い昔の事
遠い昔の事 その12
受付でイさんが素早く手続きを済ませ わたし達は昨日行った大きなガラス窓のある病室へと向かった。 昨日は気付かなかったが廊下にも大きな窓がありそこから木々の生い茂った山が見えた。 そう言えば昨日食堂からホテルまで歩いて帰る時も山が見えていた気... -
遠い昔の事
遠い昔の事 その11
韓国に着いて3日目。 少しはこの状況にも慣れてきた。 今日は10時に病院でイさんと待ち合わせだ。 今日の予定はまず父に会う。 ベッドサイドまで行ける事も昨日確認した。 それから父の荷物を受け取る。 そして最大にして最難関の父のオンナと会う。 昨晩... -
遠い昔の事
遠い昔の事 その10
店のシャッターを開けるためカギをカギ穴に差し込もうとすると “ヨボセヨ、ヨボセヨ”と中から聞こえた。 誰かがシャッターの向こう側にいる、声の主は父だ。 その後も多分、韓国語で何かを話してる。 トーンからして何か楽しいことを話しているようだ。 し... -
遠い昔の事
遠い昔の事 その9
院長先生の部屋に戻り今後の事についての話が始まった。 “先ほどお伝えしたように当院での治療はこれ以上できません。” “つきましては日本の病院にてこれより先の治療をお勧めします。” えっ、さっきはまだベッドサイドにさえ行けないと言っていたのに 動... -
遠い昔の事
遠い昔の事 その8
“コンコンコン”失礼します。 引き戸か押戸か、はたまた横にスライドかは忘れてしまったが少し重いドアを開け 母と私とイさんは中へ入った。 大きな黒の革張りの椅子の背が見えた。 そしてゆっくりと時計回りに院長の姿が見えた。 今でこそだが、このシーン... -
遠い昔の事
遠い昔の事 その7
気持ちを強く持ちタクシーに乗り込んだ私は道の高低差とタバコとにんにくの臭いで 直ぐに気持ち悪くなった。 昨日と違い黄色かオレンジ色のタクシーで気分は上がったが 違うものまで上がってきたようだ。 こんな時に頼りになるのはイさん。 バックミラー越... -
遠い昔の事
遠い昔の事 その6
グ~キュ~ おなかが鳴って目が覚めた。 頼れるガイドのイさんとの待ち合わせはホテル前に9:00 まだ朝食をとる時間は十分にある。 母はすでに起きていてベッドの端に座っていた。 “朝ごはん食べに行こう”と声をかけると “そんなにおなか空いてないんよ”と...
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