遠い昔の事 その9

院長先生の部屋に戻り今後の事についての話が始まった。

先ほどお伝えしたように当院での治療はこれ以上できません。

つきましては日本の病院にてこれより先の治療をお勧めします。

えっ、さっきはまだベッドサイドにさえ行けないと言っていたのに

動かしても大丈夫なのかなと思った。

母が“あの状態で搬送できるのですか?”と

先生に質問すると一言“そうなります”とおっしゃった。

今度は私が“あの顔や頭の腫れを少しひかせるのは無理ですか?”と

質問してみた。

すると先生は

今の状態で頭の中にある血を頭蓋に穴をあけ抜こうとすると

脳圧で血が噴水のように吹き出します” と言いつつ、

両の掌を頭の上で合わせて指先から離していきYの形にした。

エエエエエエエッ~

声は出ていなかったと思うが、

顔は漫☆画太郎せんせい風になっていたと思う。

それを見た先生は私と母が今の説明を理解できていないと

思われたのか、紙にペンで書いてくれた。

電球を逆さにしたような絵を描き、その頂点を突いてから

\|/と書いてくれた。

いやそれ、ひらめいた時のやつやん

父の頭でなにを遊んでるん。

先生には絵のセンスはなかったようだ。

その説明の後、先生は自分が何故こんなに日本語が話せるのかと

言う事を流暢に話された。

そして自分には日本の名前があり何故にそうなったかを話されていたと思う。

誠に申し訳ないが、その時わたしは先生の部屋の窓から見える木に生い茂った緑に目を奪われていた。

目に飛び込んでくるような活き活きとした色鮮やかな緑だ。

風に揺れる緑の葉っぱの濃淡や陽の光が重なりあい

とても綺麗な景色だった。

それから明日にはベッドサイドまで行けるので

明日も来てくださいとのことだった。

病院を出る前にもう一度、父を見ていこうと思い

母と私は先ほどの場所まで行ってみた。

やっぱりさっきと同じだった。

その後、母はトイレに行き、わたしもトイレにと歩を進めようとすると

服の裾を引っ張られ振り返るとイさんが

オンナと会うのは明日にしましょうか?

と言ってくれた。

そうだ、わたしの大役にして、頭を悩ます最大のミッションがまだ残っている。

わたしが“明日にしてもらっても大丈夫ですか?

と返すとイさんは、わたしの目をまっすぐに見て深くうなずいた。

それからすぐに電話でどこかに電話していた。

ヨボセヨ~クァwセdrftgyフジコ

語気が強めの早口で捲し立てている感じだ。

電話を終えたイさんが“大丈夫です”とわたしに言う。
イさんは本当に有能な人だ。

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