遠い昔の事 その1

開店前の店内作業が終わり、さぁ~店を出しましょ。
陳列台出して、商品整理して、マット引いてお掃除もできた。
ピロロッ  ピロロッ  ピロロッ  ピロロッ 
あっ、電話だ “はい、もしも”ピーーーー
FAXだった。
ピッ ゴーゴーゴー 印刷された文字を見た。
後にも先にも松田優作になったのはこれが最後だと思う。
なんじゃこりゃ~~~
そこにはハングル文字が書いてあり、わずかに英語の単語もあった。
何が何だかわからないので取り合えず顔見知りのチャンさんに
翻訳をお願いした。
読み進めるごとに目が険しくなるのが傍らにいてもわかる。
読み終えたチャンさんは開口一番“ド・ド・ドニチャン・ドニチャン”と
一瞬“ヘッ”と思ったがいつもわたしの事をおにーちゃんと呼んでいたので
我を取り戻し耳を傾けると“オツツイテ・ドニーチャン”と
心の中であなたも落ち着いてと思いながら聞いていくと
チャンさんは“お父さんが死にかけている、韓国の病院で死にかけている”と
再び“ヘッ”となった。
これは韓国の病院からのFAXで、今朝お父さんが病院に運ばれた
危篤状態で予断を許されない状況だから直ぐにこっちに来てほしい
と書いてる。
そのFAXを受け取りわずかな英単語が目に飛び込む。
その単語はEmergency緊急事態だ。
呆然となる私の横で口を真一文字に結んでいる母が何故だか大きく見えた。
この話の始まりだ。

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