店のシャッターを開けるためカギをカギ穴に差し込もうとすると
“ヨボセヨ、ヨボセヨ”と中から聞こえた。
誰かがシャッターの向こう側にいる、声の主は父だ。
その後も多分、韓国語で何かを話してる。
トーンからして何か楽しいことを話しているようだ。
しかし、それを店の前でずっと聞いているわけにも行かないのでシャッターにカギを差し込んだ。
途端に声が止んだ。
ガラガラとシャッターを開け中に入ると
カウンターの向こうに父がいた。
“こんな時間に何してるん?”
と聞く私に“ちょっと明日の注文の確認や”と言い
昨日お隣から回ってきた回覧板をめくっている。
注文書はレジの横の電話台の下ですけどね。
と、思いながら関わるまいと思い自分の用事を済ませ店を後にした。
あの時、父をしっかりと追及していれば今こんな事になっていなかったのかも。
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病院を出たのは昼をとっくの昔に回っていた。
おなかが空いていたのでイさんも一緒にご飯に行きませんかと誘ってみた。
“わたし今日はこれから学校に行くので、これで失礼します。”
と言ってさっそうと歩いて行った。
わたしと母はご飯を食べに行こうと思ったが言葉も地理も、もちろん美味しいご飯屋さんも知らない。
イさんが去った今、あまりに無力である。
病院前の坂を上がったところの大通りなら店がたくさんあったので
とりあえずそこまで歩いてみた。
お店はあるにはあるが、思ったほどはなかった。
閉まっているお店もあり、何よりハングル文字ばかりで何屋さんかもわからない。
屋台も数店はあったが何やら辛そうなものばかりで辛い物が苦手なわたしと母には無理だと感じた。
結局その大通りで黒いタクシーに手を挙げ乗せてもらった。
“○○ホテルまでお願いします。”
そのタクシーの運転手さんは私たちが
日本人であることを気付き色々と日本語で話をしてくれた。
“今、韓国の景気は悪いのでこの辺りのお店も閉めたとこが多い”とか
“あそこの店のあの料理は美味しかった”とか
それだ、運転手さんに聞いてみよう。
“わたし達の泊っているホテルの近くに
辛い物が苦手なわたし達でも行けるお店はありますか?”
と尋ねてみた。
運転手さんは、ん~と首を傾げてから
“それならホテルには少し遠回りになるけど”と言い
そこの店まで連れて行ってくれた。
到着したのは良いが店は閉まっていた。
“明日は開いていると思います。”
“ここの韓定食なら辛くないと思います。”
と丁寧に教えてくれた。
そこからわたし達の泊っているホテルまでは大体500m程で道も簡単ですよと教えてくれた。
“明日の予行演習のつもりで、ここからホテルまで歩きます”
と言うと道順と目印を教えてくれた。
“ここを真っすぐ行って散髪屋のサインポールが見えるから
そこを右に曲がってしばらく歩くとまた散髪屋がある。
その散髪屋を過ぎて少し歩いたら今度は地下に降りて行く散髪屋があるのでそこを左に曲がってください”と
その時は散髪屋の激戦区なのだなと思っていたが、のちに父の友人に教えてもらったら、
そう言う事かとびっくりした。
そして帰り道にあったコンビニ、ミニストップかセブンイレブンでキンパとわかめスープを買った。
このキンパがすごく美味しかったのを覚えている。
明日は父のそばまで行ける。