とりあえず落ち着こう。
何もかもが突然で理解が全く追いつかない。
たった今店を開けて、ものの10分も経たないうちに
すぐさま韓国まで行かないといけない状況になった。
まず店は閉めよう。
閉店作業なんて毎日やってて、目を閉じてても出来るはずなのに
とにかくドタバタしてた。
それから、父の友人に事の次第を説明し
直ぐにこっちに来てほしいとお願いした。
まもなく父の友人が神妙な面持ちで現れ
顔色を無くしている母とわたしに“気をしっかり持ちや”と
声をかけてくれた。
あと、母とわたしに“とりあえずパスポートを用意して”と
パスポートの意味はすぐに理解できたが
母もわたしも海外旅行には縁がなく
もちろんパスポートなんて持ってなかった。
その友人は父とよく海外旅行に行っていたので
わたしたちも当然のように持っていると思っていた様子。
わたしと母はまずパスポートを作るところから始めないといけないらしい。
父の友人はとても頼りになる。
パスポートの件もいろいろな団体に連絡してくれて何とか一日でとれた。
“特例で特例で特例で”、3つ4つの公共機関を回りその受付カウンターで何度もそう念押しされた。
それぐらい特例なことなんだろう。
最終的にパスポートセンターで受け取り
少しホッとしたタイミングで母がトイレに行った。
そういえば朝から夕方まで一緒に一息つく間もなく
飲まず食わずで動き回っていた。
自分もトイレに行こうと思い父の友人に告げようとした時,父の友人が
“わたしにだけ伝えたいことがある”
と言ってきた。
“向こうに着いたらわたし一人だけで会ってほしい人がいる、その人は私の父の彼女なんや”
と、なんかもう目がうつろだったと思う。
うつむいた時、取り立てほやほやの
パスポートかそれに付随する書類かは忘れたがそこには赤いハンコで
“Emergency”とあった。
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