えっ、このタイミングでまさか…
まだ空港から出て数分も経っていない状態で
しかも大役としての心の準備も出来ていない状況の中でわたしはまたもやパニック状態に陥ってしまいそうになる。
あわわ、あわわとは声には出ないがその時の顔なら
あわわ顔の選手権上位には入れると思う。
そんな状況を察したかのようにその女性は
“ガイドのイです。”と
“この度の事は大変お悔やみ申し上げます。”
“ここから先は私がすべて同行させていただきます”と
とても流暢で聞き取りやすい言葉にとても安心した。
そこから高級感のある黒のタクシーで病院に
行くのかと思いきや今晩は父に会うことは出来ないらしい。
集中治療室で面会謝絶になっているという。
ホテルに向かうタクシーの中、前に座っているイさんは
後ろを何度も振り返りわたしと母を気遣ってくれた。
韓国に着いてから母はイさんに挨拶したきり何も話さなかった。
ホテルに着きチェックインも終わり部屋まで案内してもらい
明日の予定を聞きイさんにお礼を行って部屋に入ろうとする私に
イさんは“少しお話があります”と言って私だけを廊下に引き留めた。
“明日は病院に行くのですがそこにあなたの父のオンナがいます”と
やっぱりそうか、明日はその人に会うんだなと。
しっかりした面持ちでてきぱきとした動き、きっと頭がよく人の気持ちを思いやれる人なんだろうなと
思っていたイさんが放った“父のオンナ”と言う言葉だけが少し気になった。
その当時、国内旅行や、ましてや海外旅行など考えたこともなかったので母もわたしも少し大きめのボストンバックだった。
その日は荷物整理もそこそこに二人ともベッドに入った。
“おやすみ”と力ない母の声、
私も“おやすみ”と
母と隣同士で眠るのは小学生以来かな?
そんなことを思いながら疲れていつの間にか眠っていた。
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