遠い昔の事 その5

六年三組、今日は遠足で奈良に行く。
小学校から駅までみんなで2列で歩く。
先生に先導されながら駅までのわずかばかりの距離を歩くだけだ。
友達とこれから始まるイベントをあーだこーだと笑いながら話していた。
ざわざわ、ざわざわ
なんだか前の方が騒がしい。
ある一定の場所でそのざわつきが大きくなる。
途端に嫌な予感がする。
わたしの店は小学校と駅の間にあり
駅までのルートに入っている。
今まさにその店の前で何かが起こっている。
そして、店の前が少し目に入る。
おーい○○頑張って来いよ~
そこにはバーベルを持ち上げ、上半身裸で
下はスラックスに革靴。
頭は伸びたパンチパーマにサングラス
今なら直ぐに通報案件になるような父の姿があった。
そこから先は記憶があまりない。
小学校高学年の私にとって、それはあまりに悲劇で
残酷な時間を過ごすことになる。
周りのみんなにとっては最高の話題になるからだ。
事実、お弁当の時間にほかのクラスの話したことのない男子が数名で
朝のあの人○○さんのお父さん?”と話しかけてきた。
ち、違うけど”とわかりやすい嘘だった。
去り際にお供えのように、その男子たちが
今でいうグミの前身のサクランボ餅を置いていった。
夢であってくれ嘘であってくれと思った。
久しぶりにそのことを夢で見て起き上がった。
横を見ると上半身を起こし背中を丸めた
母の姿があった。
あんたも寝られへんのか
いや、変な夢を見てん
そうか
力なく母がそう言った。
明日は朝から父がいる病院に向かう。
そこで搬送時の状況、処置と
現在の状況、これからの事
そして父のオンナと会う。
少しでも寝ておこうと、また横になった。

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