遠い昔の事 その11

韓国に着いて3日目。

少しはこの状況にも慣れてきた。

今日は10時に病院でイさんと待ち合わせだ。

今日の予定はまず父に会う。

ベッドサイドまで行ける事も昨日確認した。

それから父の荷物を受け取る。

そして最大にして最難関の父のオンナと会う。

昨晩は今日の事を想像して寝つきが悪かった。

酔っ払いとズルする奴は嫌いやねん。

父は良くそう言っていた。

電車でお出かけし芝居小屋で大衆演劇を見て

串カツを食べ、その後近くにある甘味処でぜんざいを食べるというのが

我が家の月に1度の恒例行事だった。

帰りの電車で酔っ払いの男が席にごろ寝しているのを見つけると、父はわざとその近くに座りニコニコとしていた。

混んでいる時間帯ではないので座ろうと思えば

難なく座れるのに酔っ払いの横に座るのだ。

母とわたしは少し離れたところに座る。

すると酔っ払いは寝返りをうち足か手が伸びた時に横に座っている父に当たる。

その刹那“痛いな~”と

酔っ払いは瞑った目を開き“なんや~”と

すかさず父は“ワレ誰に当てとんや”と語気を強め言い、立ち上がり酔っ払いに顔を近づける。

酔っ払いが何か言い返そうと父の顔を見ると

パンチパーマにサングラスをかけた、如何にもな

風体の輩がいる。

先にも述べたように父は学生時代にボクシングと柔道をやっておりボディービルも趣味としている。

大概の酔っ払いはそこでバツ悪そうに“すんません”と言い

車両を移動するか次の駅で降りる。

わたしも母もその酔っ払いとともに

その場を立ち去りたい気持ちだった。

そして、おもむろにこちらに寄ってきて

先の言葉“酔っ払いとズルする奴は嫌いやねん。

わたしはその時のドヤ顔をふと思い出した。

そんな事をあえてする、あんたの方が嫌いやわ。

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ホテルの受付でタクシーを呼んでもらうため

母とわたしはエレベーターに向かった。

母は少し疲れている様に見えた。

今日は私一人で行こうか?

と尋ねると“大丈夫”と言い自分が先に歩き出した。

受付に着きタクシーを呼んでもらいロビーで母と待っていると直ぐにタクシーが来てくれた。

黒いタクシーだ。

病院には10分ほどで着いた。

お支払いを終えタクシーから降りたところで

イさんが待っていてくれた。

おはようございます、今日はまず病室に行って

それから父の搬送について会議室で話をします

と教えてくれた。

そのあと父の泊っていたホテルから届いている

荷物の受け取りがあり、それを確認するという。

母とわたしは頷きイさんの後に続いて病院に入った。

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